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イノシシ

 先日、独りで六甲山に登りました。
 たまたま前にも後ろにも他の登山客がいない状況で、「今日はいつもと違って静かやから、独りで考え事をしながら登れて有り難い」と感じていました。
 六甲山は野生のイノシシが数多くいて、あちこちに「イノシシ注意」の看板があります。
 私自身は六甲山で、遠くの藪の中を1匹のイノシシが走り去る姿や、遊戯施設の金網の外の山中での群れや、土留め壁の上等々、自分とイノシシとの間に「安全地帯」がある状況でしか見たことがなく、それほど危険を感じていませんでした。

 しかし、先日は、カーブした登山道を曲がった出会い頭に1匹のイノシシと出くわしました。
 小さなメスでしたが、周りに人はおらず、完全にお互いが正面を向いた出会い頭の状況で、双方ともジッとフリーズしました。
 私との距離はおよそ3メートル。
 野生の獣とサシで、至近距離で、正面から向き合うのは初めてでした。
 咄嗟に「これは私が下手に動いてイノシシが突進してきたら大怪我をする」とフリーズしました。
 そのまま正面を向き続けながらジリジリと動き、最も近くにあった細い木の後ろに回りこみましたが、まだお互いに正面を向き合ったままです。
 「こりゃあ、動くに動けないな」と困ったまま、10分くらい静止してたでしょうか・・・
 もっともっと長く感じましたが・・・
 私が来たのと逆方向(イノシシの後ろ方向)の遠くから若い男性集団の登山客の声が聞こえてきました。
 私は一応、安全のために「イノシシがいますよ!」と、イノシシから眼をそらさずに叫びましが、日本の若い男性は集団になると勇敢で「あ、男前のイノシシがおる」と遠くから叫んではしゃいでくれたので、当のイノシシはゆっくりと藪の中に消えていきました。

 さて、
 その後の下山時のことです。
 自分でも驚いたのですが、登るときには全く気づかなかったイノシシの足跡や、地面を掘り返した跡が、勝手に次々と目に入るようになっているのです。
 どうやら私の五感が、イノシシとの遭遇という恐怖体験でフルに覚醒し、意識しなくても敏感に危険を事前察知するようになったようなのです。

 「リスク」というものは、このように実体験として恐怖を感じて初めて事前に察知できるようになるものであって、頭で分かっているだけでは五感は覚醒せず、事前察知できるものではないと痛感する出来事でした。
 経営も同じく、恐怖を伴った「リスク」を実感したことのない業績好調の経営者は、イノシシと実際に対峙したことのなかった私と同様に、先々の経営のリスクに敏感になれない、つまり「リスクヘッジのためのコンサルティング」なぞ事前に(好調時に)我々に依頼してくるはずがない、と妙に納得する出来事でした。